「合流」




「一さん…?」

大通りの真ん中。覚えのある後姿に、時尾は思わず声をあげた。
それは、何度も追いかけた背中。そしてあの日、追えなかった背中…。

「やっぱり!お久しぶりです。私のこと、覚えておられます?」

振り返った顔を見て、時尾ははしゃいだような声で言った。
懐かしくて、嬉しくて仕方なくて…。
辛いことばかりだった京都、幕末で、たった一つの優しい時間。
必ずまた巡り会えると思っていた。きっとまた、二つの流れは一つになると。
けれど時の流るにつれ、時代が流るにつれ、その確信めいた想いは徐々に弱まっていった。
時尾はじっと、二度と逢えないと思っていた人を見つめる。
大通りの真ん中。二人は見つめ合った。
しかしずっと黙ったまま、どこか思い悩んでいるような斉藤の様子に、時尾は不安になる。

「忘れられてしまいました?」

時尾は笑顔を作って、出来るだけ優しい声を出した。

「時尾です。以前、京都の方でお世話になりました。」
「ああ。覚えている。」
「まあ。そんな、気を使わないでください。忘れられていたって、私は別に…。」
「俺を忘れたのはお前の方のようだな。俺はそんな気を使うような男だったか?」

斉藤の言葉に懐かしい時間を思い出し、時尾の顔は明るく綻ぶ。

「…そうでした。あなたは、私などに嘘を吐く方ではありませんわ。」
「そういうことだ。」

会話が途切れ、束の間沈黙が流れる。やっと、巡り会えた。あの頃のように。
けれど斉藤の言葉が、それを破った。

「何か用が?」
「いえ…。ただ、懐かしい姿を見かけたもので、つい…。」

また巡り会えたと思ったのは、時尾だけだったようだ。
やっと一つに戻れると思ったのに、まだ二人は別々に流れているのだと、時尾は悲しくなった。

「そうか。では、これで。」
「はい…。」

また会えただけで幸せで、それ以上何もいらなかった。巡り会えたその先なんて、考えなかった。
頷くしかなかった。
それを見た斉藤が背を向け、歩き出す。
何度も見た背中。何度も追いかけた背中。あの日、追えなかった背中…。
追わなくてはと、時尾は自分に訴える。
あの日離れてしまった、流れを一つに戻すために。
きっとまた巡り会えると、確信していた。そしてもう、二度と離れない。

「一さんッ。」

離れていこうとする腕に追い縋る。

「何だ?」

無理矢理振り返らされ、斉藤はイラついた声で言った。

「ごめんなさい…。あの、生きてまた会えると思いませんでした。」
「ああ。」
「でも、もう一目会いたいと思っておりました。そしてこうして一目会えたら、また会いたいと思ってしまいました。」
「ふん。俺は、出来れば二度と会いたくなかったがな。」

斉藤が笑う。
時尾は泣きそうになる。
もう、駄目なのだろうか…。
突然、斉藤が時尾の頬に乱暴に触れる。

「泣くな。阿呆。」

斉藤の言葉に、時尾は驚いた声を上げる。

「泣いてなどおりません!」
「ふん。」

時尾は泣いてなどいなかった。
どんなに泣きそうでも、こんなに悲しくても、けして、泣いてなどいなかった。

「泣いてなど…、おりません…。」

斉藤の腕を掴む手が震えた。
時尾は、斉藤の瞳を見つめる。不意にその瞳から、一筋の涙が零れ、斉藤の手袋に沁みた。
たとえどんなに泣いてたとしても、けして、この手は離さない。

「阿呆。」

それなのに、斉藤の声に驚いて、時尾は思わずその手を離してしまった。
その声が、言葉が、驚くほど優しくて、

「家は何処だ?送ってやる。」と、勝手に先へ歩き出す斉藤に、時尾は呆然としたまま言った。

「そちらからでは帰れませんわ。」

そして、ふと思う。

「それとも、いつまでも帰り着かなければ、ずっと一緒にいられますでしょうか?」
「ど阿呆。」


やっと、巡り会えた。
時尾は嬉しくて、声をたてて笑った。




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【作者コメント:桃子】
遅くなってしまってごめんなさい…。
やっと始まりに戻ってきましたよ。